税制改正情報
事業承継税制
現行の制度の概要
現行の措置法特例は、次のように定めています。 (要旨)「特定事業用資産相続人等が、相続又は遺贈により取得した特定事業用資産でこの項の規定の適用を受けるものとして選択をしたものについて、 当該相続の開始の時から当該相続又は遺贈に係る相続税の申告書の提出期限まで引き続き当該選択特定事業用資産のすべてを有している場合その他これに準ずる場合には、 相続税の課税価格に算入すべき価格は、次の区分に応じて定める割合を特定事業用資産の価格に乗じて計算した金額とする。
- 特定同族会社株式等又は特定受贈同族会社株式等である選択特定事業用資産
100分の90 - 特定森林施業計画対象山林又は特定受贈森林施業計画対象山林である選択特定事業用資産
100分の95
対象会社の要件は、発行済株式総額が相続税評価額ベースで20億円未満の会社とされており、 相続税評価額の総額が20億円以上となる規模の会社には適用されません。また、軽減した対象範囲の上限も、相続した株式のうち、 発行済株式総数の2/3または発行済株式総額10億円までの部分のいずれか低い額までとしているため、10億円が低い場合には、10億円の10%が上限となり、 1億円が適用される軽減額の上限とされています。
新しい制度は特定同族会社株式について80%を軽減する納税猶予制度として、対象会社の要件の現行の発行済株式総額が20億円未満という要件を撤廃し、 中小企業基本法上の中小企業まで適用企業を拡大します。また、軽減対象となる発行済株式の限度額である10億円を撤廃し、 発行済議決権株式総数の2/3以下を限度とする制度に改めます。以下、制度の詳細です。
取引相場のない株式等に係る相続税の納税猶予制度の創設
(1)適用される中小企業
中小企業基本法の中小企業を対象とするため、業種ごとに資本金額と従業員数により適用される企業を次の範囲とします。
- 製造業、建設業、運輸業、その他
資本金の額等の総額(以下、資本金という)が3億円以下ならびに常時使用する従業員の数(以下、従業員数という)が300人以下の会社等 - 卸売業
資本金が5,000万円以下ならびに従業員数が100人以下の会社等 - サービス
資本金が1億円以下ならびに従業員数が100人以下の会社等 - 小売業
資本金が5,000万円以下ならびに従業員数が50人以下の会社等
(2)被相続人要件
被相続人(先代経営者)は、次の1、2を満たしていることが必要です。
- 当該会社の代表者であったこと
- 被相続人(先代経営者)と同族関係者で発行済株式総数の50%超の株式を保有、かつ被相続人が同族内で筆頭株主であった場合
(3)相続人要件
相続人(後継者)は、次の1、2を満たしていることが必要です。
- 当該会社の代表者であること
- 相続人(後継者)と同族関係者で発行済株式総数の50%超の株式を保有、かつ相続人が同族内で筆頭株主となる場合
(4)事業継続要件と納税猶予の免除要件
相続発生後に5年間の事業継続要件があります。具体的には、次の要件を満たすことが必要です。
- 代表者であること
- 雇用の8割以上を維持すること
- 相続した対象株式を継続して保有すること
また、納税猶予された税額は、取得した株式を死亡のときまでに保有し続けた場合など、一定の場合に免除されることとなります。
図表:事業承継に係る税制
現行制度 | 新制度 | |
---|---|---|
対象会社 | 発行済株式総額20億円未満の会社 | 中小企業基本法の中小企業 |
軽減対象の限度枠 | 相続した株式のうち、発行済株式総数の3分の2または10億円までの部分のいずれか低い額 | 発行済議決権株式総数の3分の2以下を限度 |
減額割合 | 10% | 80% |
「法定相続分課税方式」から「遺産取得課税方式」に
また、現行の相続税の計算方式は、法定相続分課税方式と呼ばれているものです。 課税遺産総額を法定相続分で分けた金額に対し相続税の累進税率を適用して税額を求め、それを相続税の総額として固定、 相続人が取得した財産の金額に応じて納税割合を算出する方式をとっています。そのため、相続財産全体の金額の増減により、 取得した財産額が変わらない人にも税額の増減が発生する点が問題とされています。
つまり、事業承継税制が後継者に適用された結果、後継者以外の相続人に対しても、 事業承継税制の効果が自動的に及びその相続税負担が軽減されることになります。また、新しい事業承継税制は納税猶予制度を目指しているため、 後継者が経営の継続や株式の保有要件を満たさなくなった場合、後継者に納税猶予前の税額の納税が必要となりますが、 後継者以外の相続税も追加徴収する必要が生じます。
こうした問題があるため、相続税の課税方式を「法定相続分課税方式」から、「遺産取得課税方式」に変更し、 相続人が取得した財産の金額に応じて累進税率を適用することで、現行制度の問題点を解消することを予定しています。 この課税方式の変更は、事業承継税制の適用者だけでなく、相続税が課税される人全体に適用されるため、影響の大きい改正といえるでしょう。