税制改正情報
資産税関係の改正
1.教育、結婚・子育て資金一括贈与非課税制度の見直しと延長
◯1 制度の概要
「教育資金」及び「結婚・子育て資金」の一括贈与に係る贈与税の非課税措置は、若年世代の教育や結婚・育児への経済的な負担や不安を軽減するために設けられている制度です。
子や孫が親や祖父母から、金融機関との契約に基づき、信託受益権を取得するなどの方法で教育資金などの贈与を受けた場合、教育資金は1,500万円まで、結婚・子育て資金は1,000万円まで、受贈者の贈与税が非課税となります。
◯2 改正の背景
若年世代の負担軽減という制度の趣旨に反して、富裕層の相続対策として利用されてしまう点が問題視されました。
問題点①:
制度利用中に贈与者が死亡した場合、教育資金に関しては、贈与から3年経過後は、死亡時の残額が相続財産に加算されない
問題点②:
贈与者が死亡し、残額が相続財産に加算される場合、本来であれば孫は「相続税の2割加算」の対象となるところ(配偶者・1親等の血族以外は相続税額が2割加算される)、2割加算が適用されない
このような点から、孫に直接遺産を遺贈することにより、相続税の課税を1回免れるといった租税回避(世代とばし)が可能となっており、節税的な利用を防止することを主な目的として、制度の見直しが行われました。
◯3 改正の内容
主な改正内容は、下記のとおりです。
(1)贈与者死亡時の教育資金残額を相続財産加算
教育資金の一括贈与について、金融機関との契約終了前に贈与者が死亡した場合、受贈者が以下の場合を除き、残額を受贈者が贈与者から相続等により取得したものとみなされます。
- 23歳未満
- 学校等に在籍している
- 教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講している
(2)2割加算を適用
贈与者から相続等により取得したものとみなされる残額について、贈与者の子以外の直系卑属(孫等)に相続税が課される場合には、相続税額の2割加算の対象とされます。
(3)受贈者の年齢要件を引下げ
結婚・子育て資金の一括贈与について、民法改正による成年年齢引下げに伴い、受贈者の年齢要件の下限が18歳以上(改正前:20歳以上)に引き下げられます。
◯4 適用時期
上記〇3(1)(2)の改正は令和3年4月1日以後に信託等により取得する信託受益権等について、(3)の改正は令和4年4月1日以後に信託等により取得する信託受益権等について、適用されます。
また、両制度の適用期限が令和5年3月31日まで2年間延長されました。
2.各種納税猶予制度の見直し
◯1 法人版事業承継税制の後継者要件緩和
(1)制度の概要
事業の後継者である受贈者・相続人等が、非上場会社の株式等を贈与または相続等により取得した場合、その非上場株式等に係る贈与税・相続税の納税を猶予し、後継者の死亡等により、納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度です。
「一般措置」と「特例措置」の2つの制度があり、特例措置は事前の計画策定等や適用期限が設けられていますが、納税猶予の対象株数の制限がないことなどの違いがあります。
(2)改正の内容
下記の場合は、後継者が相続開始直前に役員でなくても、制度の適用を受けることができるようになりました(一般措置は1.の場合のみ)。
- 被相続人が70歳未満(改正前:60歳未満)で死亡した場合
- 後継者が中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則の確認を受けた特 例承継計画に特例後継者として記載されている者である場合
◯2 個人版事業承継税制の対象資産の範囲拡大
(1)制度の概要
青色申告を行う事業者の後継者が、贈与または相続等により事業用資産を取得した場合に、その事業用資産に係る贈与税・相続税の全額の納税が猶予され、後継者の死亡等により、納税が猶予されている贈与税・相続税の納税が免除される制度です。
対象となる事業用資産には、事業の用に供されていた宅地や建物、一定の減価償却資産などが含まれます。
(2)改正の内容
適用対象となる事業用資産の範囲に、被相続人または贈与者の事業の用に供されていた乗用自動車で青色申告書に添付される貸借対照表に計上されているもの(取得価額500万円以下の部分に対応する部分)が加えられました。
◯3 農地等に係る納税猶予等の利子税の特例
(1)制度の概要
相続等により農地を取得した相続人等が、引き続き農業を継続する等の条件を満たす場合には、相続税等の納税猶予が受けられる特例制度があります。
そして、納税が免除される期限前に農地を譲渡した場合は、本来であれば相続税等及び利子税の納付が必要となるところ、公共事業推進の大前提となる迅速かつ円滑な用地取得を図るため、公共事業用地として農地を譲渡した場合は、利子税を全額免除する特例も設けられています。
(2)改正の内容
利子税を全額免除する特例について、適用期限が令和8年3月31日まで5年間延長されました。
◯4 特定の美術品に係る納税猶予制度
(1)制度の概要
優れた美術品が広く公開されることを目的に、美術品を美術館に寄託していた者(被相続人)から相続または遺贈によりその美術品を取得した相続人が、美術品の寄託を継続する場合には、その美術品に係る相続税の一部の納税が猶予される制度が設けられています。
(2)改正の内容
現代美術品についても、文化資源として美術館での公開が促進されるよう、登録有形文化財登録基準の改正を前提に、適用対象となる特定美術品の範囲に製作後50年を経過していない美術品のうち一定のものが加えられます。